研究 −

Research, Cases, Books

マーケティング戦略と消費者行動との関係を強く意識しながら、実証的な消費者行動研究に取り組んできています。端的に言えば、「マーケティング視点にもとづく消費者行動研究」、そして、「有効なマーケティング戦略のあり方を明らかにするための消費者行動分析」が研究テーマです。実務の世界にも貢献できるような消費者行動の理論構築をすることを理想としています。

一方で、企業のマーケティング活動とは直接関係しなくとも、純粋に「消費者の心理」を明らかにすることにも関心を持って研究を進めてきています。現在の消費者行動研究は、必ずしもマーケティング研究の領域とは言えないところにまで範囲を広げてきています。私自身も、この流れを受けて関心領域を広げてきています。

私自身はビジネススクールの教員であるため、実務家のみなさんと議論する機会がとても頻繁にあります。そのため、研究論文の執筆に取り組むだけでなく、ビジネスケース、テキストなどの書籍を執筆することにも力を注いでいます。

進行中の研究プロジェクト
(学会発表をしたプロジェクト、研究費を獲得しているプロジェクトのみ掲載)

災害後の心理的状態が食の消費増加に与える影響(共同研究)

災害は、災害の当事者に人的・経済的損失、精神的被害を与えるだけではありません。当事者以外の人々の心的状態や消費行動(とりわけ、食の消費)にも影響を及ぼします。本研究は災害後(たとえば、大きな地震)に喚起される、食の消費(購買・調理・飲食行動)の変化について検討していくものです。大規模な災害被害が起きやすい日本からの研究成果の発信を目指しています。
  • この研究は科研費基盤研究(C)(20K01997)の支援を受けています。

グラスの厚みが飲料の味覚評価に与える影響(共同研究)

この研究のきっかけは、共同研究者の有賀敦紀先生と後楽園でビールを飲んでいたときの会話でした。有賀先生の「薄いグラスで飲む方が美味しいよね〜」という呟きから、実際の研究にまで発展しました。ガラスメーカーに勤務する、松下の立正大学時代のゼミ生、糸山君の協力を得て、厚みの異なるグラスを作成し、実験に取り組んでいます。どんな結果が得られると思いますか?結果をぜひお楽しみに。
  • この研究は、長谷川香料株式会社より支援を受けています。感謝申し上げます。
  • 市村風花・元木康介・松下光司・有賀敦紀(2021)「グラスの厚みが飲料の味覚評価に与える影響」、第62回消費者行動研究コンファレンス、自由論題報告

サービス・ロボットが味覚評価に与える影響(共同研究)

レストランやカフェなどの現場で、ロボットが食事や飲物を提供することは、遠い未来のことではありません。ここ数年の間で、珍しくなくなるでしょう。このプロジェクトでは、ロボットによって提供される飲料に焦点を当て、味覚の評価が変わることを示そうとしています。予測するような実験結果が出るか、私自身も楽しみにしています。
  • この研究は科研費基盤研究(B)(19H01542)の支援を受けています。

なぜブランドが登場しないエンターテインメント・ストーリーがブランドのクチコミを喚起するのか?

インターネット上において、ブランド・オリジナルのショート・ムービーやドラマを見ることができます。そのなかには、タイトルなどにはブランド名を含むものの、ストーリー内にブランド自体は全く登場しないものがあります(その意味で、プロダクト・プレイスメントとは違います)。この研究は、そのようなエンターテインメント・ストーリーが、ブランドのクチコミを喚起することを明らかにしようとしています。
  • Koji Matsushita (2020) “When and Why an Entertaining Story Triggers Brand Buzz”, Working Paper Session, Association for Consumer Research Online Conference

優れたサービスの提供によって喚起される不平行動(共同研究)

当たり前のことですが、レストランやホテルで、期待を上回る優れたサービスを提供されれば、顧客は満足し、店員に文句を言うことはないはずです。しかし、この研究で示そうとしているのは、その常識とは逆のこと、すなわち「優れたサービスの提供によって不平行動が喚起される」ことです。実は、グループでの消費(たとえば、レストランでの友人との食事)でこの現象は起こりそうなのです。なぜでしょうか?その答えがこの研究のウリです!コロナ禍でグループ消費に関するデータが集められず、このプロジェクトは休止となっていますが、なんとか学術論文として刊行できる日がくることを願っています。
  • この研究は国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)(15KK0095)の支援を受けています。
  • 松下光司・Haiyang Yang・斎藤嘉一・土橋治子(2018)「優れたサービスの提供によって喚起される不平行動」、第57回消費者行動研究コンファレンス、自由論題報告
  • Koji Matsushita, Haiyang Yang, Kaichi Saito, and Haruko Tsuchihashi (2019) “When Better Services Leads to More Complaints?”, Working Paper Session, Society for Consumer Psychology Annual Conference

研究成果・研究発表(査読付き)

Koji Matsushita (2020) “When and Why an Entertaining Story Triggers Brand Buzz”, Working Paper Session, Association for Consumer Research Online Conference, Conference Program, p.139

Short Summary

This research proposes that an entertaining story with no brand appearance can boost brand word-of-mouth (WOM). When highly transported consumers are aware that a brand might utilize a story to strengthen the brand image (salient persuasion knowledge), they become motivated to engage in brand WOM activity.

Koji Matsushita, Haiyang Yang, Kaichi Saito, and Haruko Tsuchihashi (2019) “When Better Services Lead to More Complaints?”, Working Paper Session, Society for Consumer Psychology Annual Conference, Conference Program, p.167

Short Summary

When might providing better services lead to complaints? We propose and show that, in group-consumption contexts, complaint behaviors are driven by consumers’ individual consumption goal and their relationship goal. Receiving services superior to that of other group members may hamper fulfilment of the latter goal, because the service differences lead to intra-group social comparison. Thus, when consumers receive service superior to that of other group members, they may experience negative emotions such as guilt, increasing the likelihood of complaint.

Koji Matsushita, Haruko Tsuchihashi, and Kaichi Saito (2015) “Customer Satisfaction Regulation in Group Service Consumption: Cross-Cultural Moderators”, Working Paper Session, Association for Consumer Research Asia Pacific Conference, Conference Program, p. 45

Short Summary

This study on group service consumption suggests that a focal customer regulates his CS moderated by his self-construal. We clarify that the degree of the other customer’s experience drives the regulation and play a part in Separable or Inseparable Integration. We propose how to manage group customers based on self-construal.

Koji Matsushita, Akito Nakamura, Haruko Tsuchihashi, and Kaichi Saito (2013) “Effects of Perceived Other’s Satisfaction and the Role of the Interdependent Self in Group Service Consumption”, Working Paper Session, Association for Consumer Research North American Conference, Conference Program, p. 101

Short Summary

This study on group service consumption suggests that Perceived Other’s Satisfaction (POS) directly influences both Customer Satisfaction (CS) and repeat intention. The Interdependent Self-construal (IS) moderates POS->repeat intention relationships. We propose an unexplored antecedent of CS in intimate group consumption and identify a promising new area of cross-cultural service research.

斎藤嘉一・松下光司 他(2012)「何がブランドコミットメントを生み出すのか?ブランドと自己との結び付き、ノスタルジックな結び付き、ブランドラブの効果の包括的テスト」、『消費者行動研究』、日本消費者行動研究学会、第18巻1・2号、p.57-83

概要

ブランドに関わる概念はとてもたくさんあります。ブランド・ロイヤルティ、ブランド・コミットメント、ブランド・ラブ、ブランド・リレーションシップ、ブランド・パーソナリティ・・・。共著者の齋藤君と、「こんなにたくさんあって、何が何だかわからないよね。本当に全部いるの?」などと話していたことから、この研究がスタートしました。いくつかのブランド概念に注目しながら、概念間の区別が概念レベル、実証レベルでされています。この研究は、消費者行動研究学会で奨励賞を受賞しています(奨励賞は2回もらえないようなので、私は受賞者に入っていません!)。

松下光司(2009)「セールス・プロモーションによるブランド・エクイティ構築― 一致度と精緻化を先行要因とした説明モデル」、『消費者行動研究』、日本消費者行動研究学会、第15巻1・2号、p.1-18

概要

飲料、食品、日用雑貨などのブランドを強化することは容易ではありません。その一つの理由は、多くの消費者は、それらの財に対して強い関心を払わないためです(これがいわゆる低関与です)。この論文では、このようなときでも活用できるブランド強化の方法を、セールス・プロモーションに注目して検討したものです。この研究は、消費者行動研究学会で奨励賞を受賞しています。

書籍

松下光司・土橋治子(2021)「アッシュ株式会社:ネット・プロモーション政策」
松下光司(2021)「荒木真生 テレワークを始める:コロナ禍と消費者行動」 (『ポストコロナのマーケティング・ケーススタディ』、池尾恭一編著、碩学社、所収)

概要

本書には、新型コロナ危機という環境変化に対応するため、いかなるマーケティングが求められるのか、コロナ危機の収束後において、いかなるマーケティング対応が求められるのかを議論するための実際の企業事例が集められています。松下は「第5章 アッシュ:ネットプロモーション政策」(共著)と「第8章 荒木真生 テレワークを始める:コロナ禍と消費者行動」を執筆しています。ケースの概要は、本ページ下に記載されています。

松下光司(2021)「マーケティングにおけるデータ分析」(『Pythonによるビジネスデータサイエンス3 マーケティングデータ分析』、中原孝信編著、朝倉書店、所収)

概要

本章では、マーケティング意思決定にマーケティングデータがどのように関わっているのかを解説しています。その理解を深めるため、マーケティングについての基本的な理解から始まり、マーケティング戦略と消費者の購買意思決定モデルも紹介しています。

松下光司(2019)「価格戦略」(『ベーシック・マーケティング』、(公社)日本マーケティング協会監修・恩蔵直人・三浦俊彦・芳賀康浩・坂下玄哲編著、同文館、所収)

概要

この書籍は、マーケティング論のベーシックな基礎を、日本マーケティング協会の社会人向けの講座の講師が執筆したものです。松下は、価格戦略について執筆しています。

松下光司(2017)「セールス・プロモーションとはなにか? その役割、特徴、効果」(『デジタルで変わるセールス・プロモーション基礎』、販促会議編集部編、宣伝会議、所収)

概要

セールス・プロモーションには多くの手段が含まれます。値引き、増量、キャンペーンなど・・・です。この章では、マーケティングの全体像のなかに、それらの方法がどのように位置づけられるのか、その方法が効果を持つメカニズムはどのようなものなのかを論じたうえで、デジタル時代のセールス・プロモーションについて展望しています。

松下光司(2015)「競争戦略 ライフネット生命のニッチャー戦略」(『ケースに学ぶマーケティング』、青木幸弘編、有斐閣、所収)

概要

この書籍は、マーケティング論の基礎事項を、ケースを用いながら包括的に学べるテキストとして執筆されたものです。松下は、ライフネット生命の事例を用いながら、競争戦略を中心に説明しています。

松下光司(2014)「セールス・プロモーションによるブランド構築のメカニズム」(『ブランド戦略全書』、田中洋編著、有斐閣、所収)

概要

セールス・プロモーションは、一般的には、短期即効的な効果を持つ売上の獲得手段として知られています。ただ、セールス・プロモーションの役割は、それだけにとどまりません。セールス・プロモーションは、ブランディングの手段にもなり得るのです。この章では、このようなセールス・プロモーション効果が生じるメカニズムについてまとめています。

松下光司(2012)「第13章~第15章「消費者行動分析の応用」」(『消費者行動論―マーケティングとブランド構築への応用』、青木幸弘・新倉貴士・佐々木壮太郎・松下光司、有斐閣、所収)

概要

学部生、ビジネススクール学生、ビジネスパーソンを対象としながら、消費者行動論の基礎を包括的に学べるテキストとして執筆されたテキストです。この書籍の特徴は、消費者情報処理モデルという理論的な観点を一貫して持っていること、マーケティング論の一分野を意識していることにあります。このなかで、松下は、マーケティングと消費者行動との関連を議論した第13章~第15章の執筆を担当しています。

主なケース教材

松下光司・土橋治子(2021)「アッシュ株式会社:ネット・プロモーション政策」(『ポストコロナのマーケティング・ケーススタディ』、池尾恭一編著、碩学社、所収)

概要

株式会社アッシュは、東京・神奈川・千葉・埼玉に100店舗以上の美容サロンを直営・フランチャイズで運営する企業です。新型コロナ危機は、他の美容サロンと同様に、アッシュに多大な影響を与えました。アッシュとしては、コロナ禍においては、これまで以上に有効なネット・プロモーション政策によって、指名顧客を育成していく必要がありました。本ケースでは、アッシュにとって有効なネット・プロモーション政策を検討することを通じて、コロナ禍のもとでのプロモーション政策のあり方を学びます。また、ポストコロナにおける美容サロンの顧客行動を展望することによって、新型コロナ危機の収束を見据えたプロモーション政策についても考察します。

松下光司(2021)「荒木真生 テレワークを始める:コロナ禍と消費者行動」(『ポストコロナのマーケティング・ケーススタディ』、池尾恭一編著、碩学社、所収)

概要

コロナ禍に端を発したテレワークへの移行によって、荒木真生の生活には大きな変化が起きました。荒木氏と夫は、その生活の変化に伴って、現在の賃貸マンションから別の場所への引越しを決めました。また、荒木氏は、新しいマンションでのテレワークのため、ラグ・マットを購入することも決めました。このケースでは、このような賃貸マンションの選択行動やラグ・マットの購買行動などを分析することによって、消費者の購買意思決定プロセスや、それに影響を与える様々な要因について学ぶことを意図しています。それと同時に、新型コロナ危機を契機として、消費者の行動にいかなる変化が生じたのか、どのような生活様式を採用していくのかについても展望します。

松下光司(2021)「ハウスコム株式会社」(未刊行)

概要

ハウスコム株式会社は、首都圏、東海圏を中心に、賃貸住宅の仲介事業および、それに関わるサービス提供に従事する企業です。ハウスコムは、不動産賃貸住宅の仲介業者のなかでも、情報技術を積極的にマーケティングに活用している、いわゆる不動産テックに強みを持つ企業として知られていました。このケースでは、ハウスコムの2021年頃の状況の記述から、顧客の選択行動(いわゆるカスタマージャーニー)や接客行動を中心としたマーケティングの強みについて学びます。また、今後、ハウスコムの「不動産テック」の今後の展開について議論することで、テクノロジーとマーケティングとの関係にも理解を深めていきます。

松下光司(2019)「中央大学ビジネススクール 2019年」(未刊行)

概要

松下光司(中央大学ビジネススクール教授)は、2020年4月から開始される入学者獲得のためのコミュニケーション政策について思いを巡らせていました。彼は、様々なコミュニケーション活動がバラバラのものとならず、入学者獲得のマーケティング戦略のもとで統合的に実施されるよう計画する必要がありました。本ケースは、教育サービスを対象としたコミュニケーション政策を対象としながら、それを方向づける、セグメンテーション、ターゲット設定、ポジショニングといったマーケティングの基本戦略について学ぶことを目的としています。

松下光司(2016)「岩岡印刷工業株式会社―薄紙印刷技術を用いた新製品の導入―」(未刊行)

概要

岩岡印刷工業株式会社 代表取締役社長 岩岡氏は、薄紙印刷技術を用いた新製品のマーケティング戦略案について模索していました。岩岡氏は、プロジェクト・チームから提案された3つの新製品案をもとに、どのようなマーケティングを実施すべきかを決定する必要がありました。マーケティング戦略の基礎事項に加え、新技術をもとにしたマーケティング戦略の特性について学ぶための、3ページのミニケースです。

松下光司(2011)「あるアパレル企業のケース(名称非公開)」(未刊行)

概要

このアパレル企業は、すばやく商品を開発し、その製品をいち早く市場導入していくことに強みを持っていました。しかし、この強みがあるからこそ、流行に引きずられ、ブランドの個性をぼやけさせてしまいつつあるようでした。このアパレル企業は、自社の強みは維持しながらブランドを育成し、強化していく方法を検討していく必要がありました。本ケースは、ビジネスモデルとブランド強化との関係を学びつつ、ブランド・マネジメントの重要事項について学ぶことを意図しています。

松下光司(2009)「セントラル市 大池病院」(未刊行)

概要

大池病院は、西日本の中都市 セントラル市 南海中央駅から徒歩5分の場所に位置する、小児科・内科を標榜する中規模病院です。大池病院は、今後の病院経営に一抹の不安を感じていました。外部コンサルタントとの議論を重ねた結果 大池病院は外来患者の満足度を向上させる施策を展開する必要であることが明らかになってきました。このケースは、医療サービスに関する満足度調査の設計に取り組むことで、マーケティング・リサーチ計画の策定について学ぶことを意図しています。

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