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プロジェクト研究

コラム 『手間ひまかけて得たもの』

笠間 亜紀子

「プロ研(プロジェクト研究)のために調査に協力していただけますか」

東京都文京区の中央大学ビジネススクール(CBS)で2011年10月から11月にかけてカードと調査票を渡しながらそんな風に調査への協力依頼と説明を繰り返した。毎週末と平日の夜9時半過ぎに。

私が取り組んだのは、実務に関連するテーマの実証研究だが、調査協力者にはその場でカードを並べ替えてもらい、関連質問に選択式で答えてもらう必要があった。

調査を行うと、データを1人ずつPCに入力する。回答してもらうのに1人当たり10分~20分かかり、学校に足を運んでもデータが集まらない日もあった。目標数は80だった。

仕事ではこうしたデータ集めも入力もネットが主流である。データが増えていくごとに小さな達成感を感じたが、それ以上に道のりの遠さが感じられた。とんでもないところに入り込んだかも、と何度も思った。

データ収集後、その思いはさらに強まった。なじみがない統計ソフトを使って解析しなければならなくなったからだ。途方にくれながら、日付の変わった自宅リビングや夜仕事帰りの学内PC室で、マニュアルを見ながらソフトを回し、ソフトの解説本を読んだ。
年末年始に足を運んだ夫の実家でも考えることは論文のことばかり。眉間に深いシワが寄っていたと思う。そんな日々を過ごし、受付最終日の1月末にゼミ仲間と論文を提出した。間に合って心からほっとした。

「そんなに大変ならもうやめたら」

夫からはそう言われた。確かに実務に関わりのあるテーマではあるものの、実務ではない。2011年3月に起きた東日本大震災で仕事は忙しさを増し、5月には親を亡くした。そうでなくとも濃い一年だった。

論文を書いた理由は、自分でも説明しづらい。でも40代半ばを過ぎてから飛び込んだ学校で、論文を書かずに卒業する選択肢はなかった。また4月から半年以上かけてたどりついた調査段階で中断することなど、もっとありえなかった。

自分の好きなテーマについて1年間考え続ける――こんなことは実務ではそうはない。そのためには実査の手間も、統計ソフトに翻弄されることも仕方がなかったのかとも思う。その結果、得られた解が完全ではないとしても、考え続けるプロセス自体が得難い経験となった。統計ソフトは使いこなせるようにはならなかったが、ワードに図表を張り付けるコツはそれなりに身に付いた。

「良薬口に苦し」。ちょっと違う気もするが、働きながら論文を書くことは、比類なき贅沢な愉しみでもあったのだ。

 

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